こんにちは。データサイエンスチームの望月です。
みなさんは、ストレスが続くと肌荒れや吹き出物が増えたり、寝不足のときに肌の調子が崩れたりした経験はありませんか?
「肌は心を映す鏡」と表現されるように、古くから肌と心(自律神経)の状態は密接に関わっていると考えられてきました。
ストレスや睡眠不足が肌にあらわれる──その背景には自律神経の乱れやホルモン分泌の変化が関わっています。

とりわけ肌の状態を左右する大きな要因のひとつが「皮脂」です。
皮脂が過剰に分泌されると肌荒れやニキビ、テカリ、化粧崩れの原因となり、逆に不足すると乾燥につながります。
皮脂分泌にはホルモン、自律神経、生活習慣といったさまざまな要因が関わると考えられており、皮膚科学領域でも注目されてきました。
しかし、ウェアラブルデバイスで測定した心拍変動(HRV)や睡眠といった客観的なデータを用いて、皮脂量との関連を統計的に解析した例はほとんどありません。
私たちは、この「肌と心の関係」をより科学的に捉えるため、ウェアラブルデータ(※)と皮脂測定を組み合わせて解析しました。その結果、小規模データながらも皮脂量と自律神経活動に確かな関連が見えてきました。不規則な生活習慣やストレス、ホルモンバランスの変動で皮脂量が増加する可能性が見えてきたのです。
今回は、その詳細をご紹介します。
※ウェアラブルデータ……スマートウォッチを代表とするウェアラブル端末で測定された生体情報等のデータ
研究概要
今回の解析には、女性5名・男性3名の合計8名にご協力いただき、14日間にわたりデータを収集しました。
皮脂量の測定
皮脂の量は、皮膚研究で用いられる皮脂チェッカーを使用し、毎朝の起床時に額と頬の2か所から採取しました。
皮脂チェッカーはシート状の測定器具で、肌に押し当てると皮脂が付着した部分が黒くなります。その写真を参加者にスマートフォンで撮影してもらい収集、画像を白黒に変換して数値化し、皮脂レベルとして解析に利用しています。

生体データの取得
生体データ(心拍数や睡眠、活動量など)は Fitbit を用いて取得しました。日中の活動データとその夜の睡眠データを、翌朝の皮脂レベルに対応させて関係を調べます。

解析方法
解析を行い、皮脂量と関係する生体データがあるかを調べました。
対象とした生体データは、心拍数、睡眠、そして活動量に関するものです。
まず、心拍数データから心拍変動指標(HRV) を算出し、睡眠中の平均心拍数や、自律神経の活動を評価する複数のHRV指標を解析に取り入れました。
さらに、睡眠指標として、総睡眠時間や各睡眠ステージ(覚醒、レム睡眠、浅い睡眠、深い睡眠)の時間を解析に加えました。
これらのデータと皮脂量との関連を統計的に調べるため、皮脂量を中央値で2群(低皮脂量群と高皮脂量群)に分け、各種パラメータを比較・評価しました。また、皮脂量には性差があることが知られているため、男女を分けてそれぞれ解析を行いました。
解析結果
皮脂量の性差・部位差
皮脂量には性差と部位差が見られました。
全体として、男性は女性より皮脂量が多く、また額は頬に比べて多い傾向が見られました。

睡眠中の自律神経活動(HRV)と皮脂量
自律神経活動は「心拍変動(HRV)」から推定することができます。HRVとは、心拍のゆらぎの大きさを表す指標で、リラックス時など副交感神経が優位なときに大きく、緊張時など交感神経が優位なときに小さくなる特徴があります。
解析の結果、皮脂量が多いほど睡眠中に交感神経優位の状態にある可能性が示されました。
具体的には、皮脂の多い群では男女ともに、睡眠中のHRV指標であるRMSSDが低く、交感神経の活動を示すCSIが高く、副交感神経の活動を示すCVIが低い傾向が見られました。
睡眠中RMSSD

睡眠中CSI

睡眠中CVI

睡眠指標と皮脂量
睡眠指標との関係を調べたところ、女性では皮脂の多い群で総睡眠時間とレム睡眠が有意に短く、深い睡眠も短い傾向が見られました。
一方、男性では皮脂の多い群で深い睡眠が有意に短いことが分かりました。
このことから、睡眠の質の低下も皮脂量の増加に関わっている可能性があると考えられます。
睡眠時間

レム睡眠時間

深い睡眠時間

まとめ
こうした肌と心の関係はこれまで皮膚科学や精神皮膚医学の分野では研究されてきましたが、今回のようにウェアラブルデータで皮脂量と自律神経活動のつながりを検証した例はほとんどありません。
解析の結果から、皮脂量が多い群では睡眠中の副交感神経活動(RMSSD、CVI)が低く、交感神経活動(CSI)が高い傾向が見られました。さらに、女性では総睡眠時間・レム睡眠・深い睡眠が短く、男性でも深い睡眠が短いという特徴が明らかになりました。
一般に、交感神経が優位な状態では、腎臓の上にある副腎皮質からコルチゾール(代表的なストレスホルモン)やアドレナリンといったホルモンが分泌されます。その際、男性ホルモンの一種であるアンドロゲンも増加することが知られており、このアンドロゲンは皮脂分泌を促す作用を持っています。
今回の結果は、不規則な生活習慣(睡眠時間や睡眠の質)、ストレス、ホルモンバランスの変動によって交感神経が優位になり、その結果として皮脂量が増加するという可能性を支持しています。
小規模の解析ではありますが、ウェアラブルデバイスによる客観的なデータを用いて、皮脂量と自律神経活動との関連を統計的に示した初めての試みの一つといえるかもしれません。今後の研究により、肌と生活習慣、自律神経の関係がさらに解明されていくことが期待されます。
最後に
将来的には、自律神経や睡眠といったウェアラブルデータから皮脂量の増減を予測することで、スキンケアの方法を変えたり、生活習慣を見直すきっかけをユーザーに提供できる可能性があります。
「自分の肌の変化を先取りしてケアする」そんな未来が、データサイエンスによって実現に近づいています。

書いた人:望月