自己申告に頼らない飲酒測定――ウェアラブルでとらえる飲酒とその影響

1.飲酒習慣を測ることの難しさ

こんにちは。この記事は、テックドクターでデータ解析を担当する坂本と藤本が共同で執筆しています。

みなさんが健康診断を受けると、飲酒の習慣を尋ねられると思います。私(坂本)はよく、「飲み過ぎ注意」と言われていました。飲酒は、健康のいろいろな面に影響を与えるとされています(※1)

飲酒の量や習慣は、主に質問紙(アンケート)などで測定されます。しかし、例えば、過去7日間を振り返って飲酒の量を思い出して回答した場合、実際より少ない量で回答してしまうなどのリスクがあると言われています(※2)
もちろん、質問紙を用いた飲酒の測定も十分に有効活用できますが、毎日の記録/長期的な記録が必要な場面では、回答の負担が大きく、継続も難しいです。

そんなとき、スマートウォッチで自動的に飲酒の記録ができたら便利ですよね。
こういった背景から、私たちは「スマートウォッチを代表とするウェアラブル端末を装着しているだけで、飲酒を自動検出し、飲酒の影響を評価する」という技術開発に挑戦することにしました。

そして先日、その成果について、第32回日本行動医学会学術総会にてポスター発表を行いました(※3)。この記事では、その発表をもとに、「ウェアラブル端末で飲酒の検出と影響評価を行う技術」、そして「ウェアラブル端末のデータからわかった、飲酒が睡眠や翌日の活動に与える影響」について紹介したいと思います。

※1
例えば、厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドラインについて」, URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38541.html, Last Accsess: 2025-12-10)。

※2
例えば、
Gmel G, Daeppen JB. Recall bias for seven-day recall measurement of alcohol consumption among emergency department patients: implications for case-crossover designs. J Stud Alcohol Drugs. 2007 Mar;68(2):303-10. doi: 10.15288/jsad.2007.68.303. PMID: 17286350.

※3
◎坂本・◯藤本・深見(2025). ウェアラブル端末を用いた20歳以上の一般成人を対象とする飲酒の多変量予測モデルの開発とアルコール飲料摂取が日常生活に与える影響の評価. 第32回日本行動医学会学術総会, 神奈川県相模原市 相模原市立産業会館, 2025年12月6日. (◎は責任著者・発表者、◯は発表者)

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2.飲酒日を検出する指標の開発

ウェアラブルデバイスデータを用いた「飲酒日」の検出

ウェアラブル端末では、主に心拍数、歩数、睡眠などの情報が取得できます。
しかし、例えば「心拍数が高い」というだけでは、運動や緊張、発熱などと区別がつけられず、飲酒を特定することができません。飲酒を見つけ出すためには相応の工夫が必要です。

そこで、「お酒を飲むと心拍が早くなる」という経験に着想を得て、「歩いていない時間に持続的に心拍数が上昇する」という特徴を定量化する計算手法を開発しました。
この指標を、本記事では「飲酒指標(Alcohol Index)」と呼ぶことにしましょう。この指標が、飲酒と高い関連性を示しました(※4)

※4
2026年1月現時点: 特許出願中

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図. 飲酒があった日の飲酒指標の例

飲酒指標を代表的な情報として、睡眠中の心拍数などを加えた特徴量を用いて機械学習モデルによる解析(XGBoost)を行ったところ、飲酒日の検出精度は90%程度となりました。

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図. 飲酒日検知モデルの性能

予測モデルの妥当性評価と研究報告

飲酒の検出精度が90%と聞くと、「すぐにでも実用化できる」ように感じられるかもしれません。しかし、安全な技術を確立するためには、多面的な検証を積み重ねる必要があります。
例えば、「どのような人でも同じ性能が得られるのか」や「誤判定が生じやすい条件は何か」といったような、公平性やリスク、安全性等に関する検証や対策が必要となります。

研究報告において大切なのは、何が未検証/未対策であるかを誠実に報告し、次の検証に繋げることです。「TRIPOD+AI声明」という研究報告で求められる事項が整理された国際的な指針(※5)があるので、それに沿って多面的な評価と今後の課題をまとめました。

ウェアラブル端末を装着しているだけで飲酒の自動記録が可能になり、健康管理など様々な場面で活用できるようになるという未来に向けて、検証を積み重ねたいと考えています。

※5
Collins G S, Moons K G M, Dhiman P, Riley R D, Beam A L, Van Calster B et al. TRIPOD+AI statement: updated guidance for reporting clinical prediction models that use regression or machine learning methods BMJ 2024; 385 :e078378 doi:10.1136/bmj-2023-078378


3.ウェアラブルデバイスを用いた飲酒の翌日の影響評価

次に、実際に飲酒が睡眠や翌日の活動にどのような影響を及ぼすかについても解析しました。

社内での取り組みを通して可視化できたデータをご紹介していきます。

心拍変動指標について

今回解析に利用した、心拍変動に関する指標を紹介しておきます。

  • RMSSD……副交感神経活動を反映する指標。これが低下した場合、十分にリラックスできていないと考えられる。
  • SDNN……交感・副交感神経の両方の変動を反映する指標であり、値が高いほど活発な自律神経活動が発生していたと考えられる。

データと参加者

下記の対象者/対象データを解析しました。

  • 21名、4932日分の飲酒報告と対応する日のウェアラブル端末装着情報を利用(男性57%)
  • 前日の飲酒報告(非飲酒・少量・中量・大量)
  • アンケート回答日と翌日のウェアラブル装着がある者
  • 装着時間が70%以上の日のみ採用
  • 平均値±3SD以内の睡眠時間の日

※今回は飲酒の有無はアンケートを利用して判定しました。

解析方法

解析では、一元配置分散分析、線形混合モデルと呼ばれる手法を使用しました。

  • 一元配置分散分析(ANOVA)……飲酒量4段階の群間差を比較
  • 線形混合モデル(LMM)……個人差を調整し、飲酒有無の影響を精緻に検討

解析結果

まず、一元配置分散分析により見えてきた結果をご紹介していきます。

睡眠 大量の飲酒をした場合、少量・中量飲酒に比べてさらに睡眠中の最低心拍が高くなっていました。(図1)
翌日の心拍 大量の飲酒をすると、翌日の安静時心拍数が高くなっていました。(図2)
翌日の活動 少量・中量の飲酒をすると、飲酒しなかった場合に比べて翌日の歩数が多くなっていました。(図3)
大量の飲酒をすると、少量・中量の飲酒に比べて翌日の歩行ペースが遅くなっていました。(図4)
少量の飲酒をすると、飲酒しなかった場合に比べて翌日の高強度運動時間割合が上がっていました。(図5)

次に、線形混合モデルにより見えてきた結果をご紹介します。

睡眠 飲酒をすると睡眠中の最低心拍が高くなっていました。(図6)
飲酒をすると睡眠中のSDNNが高くなっていました。(図7)
飲酒をすると睡眠中のRMSSDが低くなっていました。(図8)
翌日の心拍 飲酒をすると翌日の安静時心拍数が高くなっていました。(図9)
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図1: 飲酒レベルごとの睡眠中の最低心拍数比較
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図2: 飲酒レベルごとの安静時心拍数比較
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図3: 飲酒レベルごとの翌日の合計歩数比較
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図4: 飲酒レベルごとの翌日の歩行ペース比較
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図5: 飲酒レベルごとの翌日の高強度運動時間比較
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図6: 飲酒日と非飲酒日の睡眠中の最低心拍数比較
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図7: 飲酒日と非飲酒日の睡眠中のSDNN比較
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図8: 飲酒日と非飲酒日の睡眠中のRMSSD比較
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図9: 飲酒日と非飲酒日の安静時心拍数比較

考察

飲酒をすると、しなかった日に比べて睡眠中の最低心拍およびSDNNが高くなり、RMSSDが低くなっています。このことから、飲酒した日は自律神経が交感神経優位な状態になりやすく、睡眠の質が低下している可能性があります。

また、大量の飲酒をすると中量以下の飲酒時に比べて睡眠中の最低心拍が高くなり、翌日の歩行ペースが遅くなります。ここからは、大量の飲酒は特に睡眠および翌日の活動に大きな影響を与える可能性が読み取れます。
一方で、少量の飲酒では飲酒していない場合との差が少ないことや、むしろ活動量が増える人もおり、個人差が大きい可能性が考えられます。

4.まとめ

ウェアラブルデバイスのデータを使用することで、飲酒日を検出する指標の開発と、飲酒の影響の評価を行うことができました。

さらなる研究によって、より安全で確かな技術を確立してゆくことが必要とされています。技術開発が進めば、アンケートの併用がなくともより手軽に飲酒の影響についての解析ができるようになるかもしれません。
ウェアラブルデバイスを活用することで日々の行動を振り返る負担を減らしつつ、健康状態への理解を深めることができます。
こうした技術が、一人ひとりの生活を少し便利に、そして健やかにする助けになることを期待しています。

5.今後の展望

飲酒を検知する技術については、まだ様々な方々を対象とした多面的な検証と安全性の評価を必要としています。

本テーマに関する共同開発にご関心のある方がいらっしゃいましたら、お気軽に、お問い合わせフォームよりテックドクターまでご連絡ください。

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書いた人:坂本、藤本