データサイエンスチームのAI活用進化記 (2026年5月版)── コピペから一気通貫へ

データサイエンス(DS)チームのマネジメントを担当している深見です。

この数ヶ月で、データサイエンティストの仕事のやり方が大きく変わり始めました。かつては「エンジニアが中心」と思っていたAIの普及による変化が、データサイエンティストを含む幅広い職種に及んでいると感じられます。

今回は、テックドクターの社内研究業務におけるAIツールの活用について、導入の経緯・業務の変化・課題と今後の展望をご紹介します。

DSチームでも、ChatGPTやGeminiの導入に始まり、最近ではClaudeを日常的に使うようになっています。つい先日まで「研究へのAI活用はまだ先の話」と思っていたのが嘘のように、今ではなくてはならない存在になっています。

Claudeの導入で何が変わったか

詳細は後述しますが、Claude導入後に起きた変化を先にお伝えします。

  • 解析用のコードを自分で書かなくてもよくなった
  • 「ちょっと試してみたい」ことが、すぐに・簡単に実現できるようになった
  • 特徴量の選定やパラメータの設定など、無数のパターンを網羅的に探索できるようになった
  • HTMLファイルでの結果出力により、わかりやすさ・インタラクティブ性が向上した

これらの積み重ねにより、 新たな技術の導入や基礎研究に充てられる時間が増加しました。基礎研究から面白い成果が生まれるなど、正のスパイラルが回り始めています。

テックドクターにおけるDSチームの研究業務

変化の背景を理解していただくため、まずテックドクターのDSチームが担う業務内容を紹介します。

  • 論文調査・仮説立案
  • データ前処理・解析
  • QC(Quality Control)
  • 結果報告 
  • 学会・論文発表

テックドクターはウェアラブルデータの医療活用という新しい分野に挑戦しており、研究だけでなく、社内外へのわかりやすい説明・アピールも重要な業務です。幅広い業務をこなす必要があるため、AIとの連携による効率化の恩恵を受けやすい環境でもありました。

AI活用の変遷

DSチームがどのようにAIツールを使いこなしてきたか、3つのフェーズに分けて振り返ります。

フェーズ1(初期):コードをコピペする時代

最初はChatGPTやGeminiを使い、可視化や解析のためのコードを生成してColabに貼り付けて実行していました。エラーが出ればエラー内容を転記してコードを再生成・再貼り付けという繰り返し。自分でゼロからコードを書くよりは多少早い、という程度でした。会話と実行環境が分断されているため、コンテキストを保ちながら作業することが難しく、生産性の向上は限定的でした。

画面キャプチャ
ChatGPTによるコード作成

フェーズ2(中期):環境に組み込む

転機となったのは、Google Colaboratory(Colab)に搭載されたGeminiがある程度実用的に使えるようになったことです。解析方針の立案・コード実行・結果考察まで、一通りの作業を同じ環境の中で進められるようになりました。特に結果考察の文章まで生成できるようになったのは大きな変化だったと思います。正確性については検証が必要とはいえ、これまで計画立案や解析以上に時間を取られることも多かった部分を一定サポートしてもらえるようになったのは非常に助かりました。

こうしてデータの把握や簡単な解析であれば任せられるレベルになりましたが、一方で一連のタスクの途中で頻繁にフリーズしたり、エラーを解消できず同じ処理を繰り返すなど、まだ「任せ切る」には実力不足という場面も多くありました。

画面キャプチャ
Colab with Gemini

フェーズ3(現在):一気通貫の時代へ

現在はClaude Codeを中心に活用しており、業務の幅と質が大きく変わりました。具体的には以下のような使い方をしています。

  • BigQueryからのデータ抽出の半自動化
    • BQとの通信、基本SQLスクリプトなどをskillとして用意しagentに実行させる
  • データ加工 → 解析 → 報告資料作成までを一貫して依頼
    • 解析指示書を作成して実行させる 
  • QC(データ品質チェック)の自動化
    • チェック項目や外れ値条件などをskillとして用意してagentに実行させる
  • 論文作成の支援
    • 関連分野の論文検索や要約、初期文面案の作成を行い人がチェックする

以前は「コードを書く→実行する→結果を整形する→資料を作る」という各ステップを人が繋いでいましたが、今はそのフロー全体をAIと協働して進められるようになりました。

QC作業においても、人手でチェックしていた内容をAIに任せられるようになり、見逃しが減るとともに網羅性が高まっています。多くのメンバーはデータの品質チェックまでを含めた「解析指示書」を最初に作成し、それを実行させるような使い方をしています。

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Claudeによる自動QC:1,000件を超えるチェックでもミスを確実に検出

大きく変わったところ

フェーズ3を迎えて特に大きく変わったと感じる3つの点について、詳しくご紹介します。

研究業務の効率化

最も大きな変化は、解析完了までの時間が大幅に短縮されたことです。

一例としては、 Claude導入前は特徴量ごとに細かい規定をしたい場合はそれに対応したPythonコードを自分で書く必要がありました。小さなミスや抜け漏れが発生しやすく、QCにも多くの時間がかかっていました。こういった非効率をClaudeは解決してくれました。

また、関連する文献の調査で知り得た解析手法などのコードの実装も、ある程度任せられるようになりました。論文などで見かけたアルゴリズムの実装は、ひとまず動く状態のコードを作成するだけでも時間がかかることが多かったですが、この時間が大幅に短縮されました。

こういった時間が大幅に削減された結果、「やってみたいが時間がかかる」として見送っていたアイデアを、隙間時間に気軽に試せるようになりました。大量の組み合わせを網羅的に探索することも現実的になり、解析の深さ・幅が広がっています。

アウトプットの変化:スライドからHTMLファイルへ

地味ながら効いているのが、アウトプット形式の変化です。従来はスライドでの結果共有が主流でしたが、現在はインタラクティブなHTMLファイルでの共有が増えています。

HTMLファイルであれば、グラフの表示範囲を変更したり、表でフィルタリングをかけたりがブラウザ上でインタラクティブに可能です。これまでは解析者が代表的なものを選んでスライドにまとめるか、大量の画像をAppendixとして貼り付けるしかありませんでしたが、閲覧者がその場で見たいものだけを選んで確認できるようになりました。結果として報告の「伝わりやすさ」が大幅に向上しています。

画面キャプチャ
これまでのスライドイメージ
HTMLによるアウトプットイメージ。プルダウンやフィルタリングによる動的な表示が可能に。

分析以外の業務への展開

Claudeの活用は解析業務にとどまりません。ドキュメント整備・社内外への説明資料の作成など、これまでDSが時間を取られていた周辺業務にも活用が広がりました。作成できるコンテンツの幅が広がったことで、ウェアラブルデータの医療活用という専門性の高い内容を、より多くのステークホルダーにわかりやすく届けられるようになっています。

画面キャプチャ
理解促進用HTMLコンテンツ:特徴量カタログ

課題

活用が進む一方で、課題も見えてきています。

  • 成果物のクオリティチェックは依然として人が必須
  • 論文・ドキュメントには厳密な確認が不可欠
    • 架空の引用やロジックのすり替えが頻発する
  • 大量に生産される結果に対して、人のレビューが追いつかない

AIは優秀な補助者ではありますが、すべてを任せられる状態にはまだありません。特に機械学習モデルの構築では、データリークを発生させてでも結果をよく見せようとするなど、指示の意図を汲みすぎる傾向が見られます。Claudeだけに頼るのではなく、GeminiなどほかのAIによる相互チェックの導入も検討しています。

まとめ

冒頭に書いたことの繰り返しになりますが、この数ヶ月で、データサイエンティストの仕事のやり方は本当に大きく変わりました。
特に感じるのは、ジュニアとシニアの差が開いているという点です。AIは知識・経験の差を補うどころか、もともと「できる人」がさらに多くのことを実現できる道具になっています。また、意欲の差も結果に直結するようになりました。これまでは「時間がかかる」「学習コストが高い」として見送っていたアイデアが、隙間時間で実行できるようになったからです。

その結果、「これをやってみたい」「こうしてみたらどうだろう」という意志・意欲のある人がどんどん成果を出す一方、言われたことだけをこなしている人は相対的に埋もれていく状況が生まれています。

AIは道具です。その道具を最大限に活かすのは、使い手の好奇心と主体性だと改めて感じています。

似顔絵
書いた人:深見