はじめまして、データサイエンス部の梛木と申します。新卒でテックドクターに入社し、半年が経ちました。学部と修士でデータサイエンスを専攻しておりましたが、ウェアラブルデバイスのデータという長期かつ連続したデータを扱う機会はこれまで少なく、毎日新しいことを学ぶ刺激的な日々を送っています。
このエントリでは、この半年で特に印象深かった経験をみなさまに共有したいと思います。ドメイン知識についてデータサイエンスチームで学ぶ、チーム内勉強会です。
なぜデータサイエンティストにドメイン知識が必要なのか
一般社団法人データサイエンティスト協会は、データサイエンティストをこう定義しています。

また、この資料ではデータサイエンティストが持つべきスキルについても、①価値創造、②データサイエンス、③データエンジニアリング、④基盤、⑤融合、の5つに大別しています。
この定義に従うと、テックドクターのデータサイエンティストとは
- データサイエンス力、データエンジニアリング力をベースに
- ウェアラブルデバイスのデータから価値を創出し
- 医療(特に注力している製薬・臨床試験)業界の課題に答えを出す
ことのプロフェッショナルであるといえます。
それにあたって重要となってくるものに、課題の存在する業界に関する知識=ドメイン知識があります。
ドメイン知識があってこそ以下のような判断ができるからです。
- 何が価値として顧客に評価され、お金を払ってもらえるのか
- なぜそれが価値となるのか
- どの課題解決方法を選べばより大きな価値が生まれるのか
例えば、外来診療において注意欠如・多動性障害(ADHD)の方の日常生活の客観的な様子を考慮した投薬ができないという課題があったとしましょう。
この課題解決に活かせそうなドメイン知識は、例えば2つあります。
| ① | ドメイン知識: ADHDの方は睡眠障害を併発しやすく睡眠の規則性も乱れやすい |
| 有用性: ウェアラブルデバイスで睡眠データを取得することで、睡眠の規則性が薬の投与とともにどのくらい変化するかを示すことに価値がある、とわかる |
| ② | ドメイン知識: 睡眠の規則性に関する研究にてSleep Regularity Index(SRI)という指標が使われている |
| 有用性: ウェアラブルデバイスで取得した睡眠データでSRIを計算すると薬とともに変化する睡眠の規則性の大きさが伝わりやすくなる |
これらにより、データサイエンスのスキルをより大きな価値につなげることができます。
このように、テックドクターのデータサイエンティストとして役割を果たしていくためには、ドメイン知識=課題の存在している医療(特に注力している製薬・臨床試験)業界に関する知識を身につけることがとても重要です。
ドメイン知識を学ぶためのチーム内勉強会
前述の、みなさまに紹介したかった印象深い経験とは、まさにこのドメイン知識についてデータサイエンスチームで学んだチーム内勉強会の取り組みです。
活動内容:
チームとして知識をつけられるよう、持ち回りで疾患分野ごとにGoogleスライドで資料を作成・推敲し、チームメンバーに対して説明を行う
開催頻度:
金曜日の定例ミーティング時に開催
メンバー:
社内のデータサイエンティスト 7名
進行:
前もって割り振られた担当スケジュールとテーマに従って、担当者は事前にスライドを作成しておきます。
当日は最初の30分ほどで担当者がスライドを見せながら説明を行います。
その後、それぞれもっと知りたい箇所や今後の解析で活かせそうなことなどを質問・コメントし、ラフな形で意見交換をします。深い理解を得るため、この意見交換には時間制限を設けません。
取り扱ったテーマ:
各自が担当した疾患領域は以下のとおりで、資料では解剖生理学的な解説 (疾患に関連する体の構造と機能)、測定と診断方法、代表的な疾患、ウェアラブルデバイスのデータを用いた代表的な研究や技術開発の動向を詳細にまとめました。
- 免疫・膠原病系疾患
- こころの病気
- 呼吸器系疾患
- 感染症
- 腫瘍性疾患(悪性・良性)
- 循環器系疾患
- 神経変性疾患
- 腎・泌尿器系疾患系疾患
- 婦人科・生殖器系疾患


(※発表内容をイメージしていただくためのサンプルであり、内容の正確性を保証するものではありません。参考資料:ウェアラブルデバイスのデータを活用した米国におけるインフルエンザ様疾患の州レベルでのリアルタイム・サーベイランスの改善:集団ベースでの研究)
チーム内勉強会に参加して得られた気づき
勉強会形式のメリット
半年間の取り組みで、キャリアがシニアにあたる人も新卒も、医療業界のバックグラウンドを持つ人もそうでない人も、それぞれが「全員に伝わるように1から学び直し、伝える工夫をする」ことを徹底していたと思います。
その場で答えられない質問があれば調べて後から共有したり、小さな感想でも今後の研究に繋がりそうなことは伝えたり。学びに対して貪欲で、キャリアを重ねても謙虚に勉強を続ける先輩方の姿勢から、データサイエンティストとして業界の知識を学び続けることの重要性を改めて感じました。
また、チーム全体の知識がボトムアップされること、発表者は質問への回答を通して個人で調査する場合以上に知識が深まることなど、勉強会の形で実施したことには多くのメリットがありました。
ドメイン知識を学ぶこと自体のメリット
ドメイン知識を学ぶこと自体からも、4つの気づきを得られました。
まず、医療業界には先人たちの経験が積み重なった、独自の知識体系があるということ。治療法の選択や、測定・診断におけるデータの扱いも歴史が重なったものであるということを知りました。
2つ目は、疾患領域によってウェアラブルデバイスを使った研究の量が異なるということ。ウェアラブルデバイスのデータを用いて課題解決を試みる私たちにとっては、どこに課題があるのかヒントを得るきっかけになりました。
3つ目は、業界へのコロナの影響は計り知れないということ。コロナ前後で研究における業界の流行のようなものが大きく変わっていることを知りました。
4つ目は、解剖生理学の重要性。全ての疾患領域において、体のどんな部分がどんな機能を持っているのか、それがどんな理屈でどんな状態になると問題が起こるのか、解剖生理学を土台に理解を進めることができました。
ドメイン知識が活きる
私が入社してからの半年間でも、ドメイン知識が活きたことが何度もありました。
まず、前述の外来診療におけるADHDの方の課題の例は、自分が実際に研究を行ったときのものです。
他の場面では、データセットに含まれている異常なデータに気がつくことができました。例えば、心拍数のデータに220越えの値が入っていたとします。これは、かなり強度の高い運動をした、若い人しか超えにくい数値です。この知識をもとに、このデータをどのように扱うか考えることができます。
さらに、探索的な解析においてデータの優先度をつけるヒントになりました。例えば…
- 感染症領域では安静時心拍数が重要な結果と結びつく研究が多い
→炎症の起こる疾患のウェアラブル研究で、安静時心拍数の変化を中心にデータを見る - 月経は周期による皮膚温の変化を引き起こす
→婦人科・生殖器系疾患のウェアラブル研究で、皮膚温の変化が重要な指標となるかもしれないと見通してデータを見る
全ての項目に時間をかけてデータを見ることができたら良いですが、現実でそのようなわけにはいきません。
ウェアラブルデバイスからは歩数・心拍数・睡眠以外にも呼吸数・SpO2・皮膚温・カロリーなど様々なデータが取れるので、探索的な解析の場合は優先度をつけて作業することが必要になります。その際に、ドメイン知識が活きるのです。
まとめ
チーム内勉強会での経験は、テックドクターのデータサイエンティストとして一歩を踏み出すためにとても重要なものでした。
作成した資料を定期的に読み直したり、人に説明する機会を設けるなど形を工夫して、今後も定期的に学び直す時間を作っていきたいです。

書いた人:梛木