月経周期による女性の体調不良ってどんなもの? 〜日々のアンケートからわかったこと〜

こんにちは、データサイエンスチームの藤本と申します。

この記事では、女性の月経周期にともなう不調に焦点を当てます。
この時期は調子が良い、この時期は調子が悪いなど、一般に言われる通説がありますが、実際のところはどうなのでしょう。
社内での取り組みを通して可視化できたデータについてご紹介していきます。

女性の月経周期についての通説

女性の正常な月経周期は、一般的に25~38日、そのうち月経期の期間は3~7日間とされています。ただしこれには、個人差があること、ホルモンバランスやストレスによって変化しがちであることが知られています。

月経周期のサイクルは、月経期卵胞期黄体期月経期...という順番で繰り返されます。

このうち、黄体期は精神的・身体的に不調が生じやすい期間です。プロゲステロンというホルモンが増加する影響でむくみが起こったり、情緒不安定になったりします。

一方で卵胞期は、調子が良くなる時期です。卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌が増えることにより、皮膚の活性化が促されて肌艶がよくなったり、自律神経が安定して前向きな気持ちになりやすい期間です。

以上は、女性の月経周期について一般的に言われている通説です。ですが実際にデータを取って解析してみることで、よりくわしく期間ごとの体調の変化をとらえることができます。その一例として、テックドクターで行ったアンケート解析の結果をご紹介します。

体調不良の女性

「Ladynamic」プロジェクトで女性社員にアンケートを実施

テックドクターには、女性社員のみで構成された「Ladynamic」というプロジェクトがあり、女性の視点に立った課題提起とデータ解析を目指しています。

※プロジェクトについてくわしくは、同じデータサイエンスチームの瀬川が書いた記事をご覧ください。
女性にとって、自分の体調が「わかる」未来を目指して〜Ladynamicプロジェクトのご紹介〜 - TechDoctor開発者Blog

Ladynamicではウェアラブルデータ(※)を利用して女性特有のデジタルバイオマーカーの開発に取り組んでいますが、そのプロセスの一環として、プロジェクトに参画している女性社員に日々の体調に関するアンケートに答えてもらっています。

ウェアラブルデータ……スマートウォッチを代表とするウェアラブル端末で測定された生体情報等のデータ

「Ladynamic」アンケートの質問項目

参加者には、下記のようなアンケートが毎日配信されます。質問項目には、日々の体調や気分に関する質問(質問1)と、月経に関する質問(質問2)があります。

質問1(毎日答える質問)

質問内容 選択肢
業務・家事・学業・育児といったタスクに影響がありましたか? 1(全くない)〜4(非常にある)の4段階
余暇時間にリラックスできましたか? 1(全くできなかった)〜4(非常にできた)の4段階
日中の眠気について 1(眠気はまったくない)〜4(非常にある)の4段階
今日の心の調子はいかがでしたか? いつもどおり/いつもと違う気分を感じた(後者の場合は、具体的な症状を選択)
今日の体の調子はいかがでしたか? いつもどおり/いつもと違う異変を感じた(後者の場合は、具体的な症状を選択)
現在、月経期間に該当する はい/いいえ(はいの場合は、質問2に進む)

質問2(月経期に該当する場合のみ表示される質問)

質問内容 選択肢
月経開始から何日目ですか? 1日目〜7日目までの7択から選択
本日の生理痛のつらさについて 1(まったく問題ない) 〜4(かなりつらい)の4段階
本日の経血量について 1(少ない) 〜3(多い)の3段階で評価
月経がはじまる前、体調の変化やつらさを感じた 1(まったく感じなかった)〜4(非常に感じた)の4段階
前回の月経が終了した後、体調の変化やつらさを感じた 1(まったく感じなかった)〜4(非常に感じた)の4段階

スマホでアンケートに回答する女性

参加者数と期間、月経周期の計算方法

アンケートの参加者数は12名、期間は2024年1月1日〜2025年4月24日の約1年5カ月です。

冒頭で触れたように、女性の月経周期には大きく分けて「月経期」「黄体期」「卵胞期」の3つの期間があります。

アンケートの「月経開始から何日目ですか?」の回答をもとに月経期を特定し、黄体期を月経開始前の7日間、卵胞期を月経終了後の5日間としました。

解析結果

1.各期間ごとのからだの不調のようす

まず、期間ごとのからだの不調に関する項目についてその発生数を集計してみました。

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図1: 各期間ごとの全参加者のからだの不調の発生回数

すべての参加者の合計のグラフです。不調の種類ごとに、月経期を赤色、黄体期を黄色、卵胞期を緑色で示しています。発生回数が多いほどグラフが長くなります。
その結果、月経期では「腹痛」が突出して多く、黄体期では「むくみ」や「乳房の腫れ」が多かったです。また、卵胞期では他の期間に比べてからだの不調が少なくなっていました。


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図2: 各期間ごとのからだの不調の発生回数(参加者ごとの例)

個人ごとのデータも見てみたところ、全体的な傾向と違う人もいました。例えば、参加者4のように月経期にほとんど症状がなく、黄体期に症状が出やすい人や、逆に参加者6のように黄体期にはほとんど症状が出ない人もいました。

2.各期間ごとのこころの不調のようす

次に、期間ごとのこころの不調の項目についても、その発生数を集計してみました。

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図3: 各期間ごとの全参加者のこころの不調の発生回数

すべての参加者の合計のグラフです。月経期では不安・憂鬱などの負の感情や、集中力低下が多く見られました。また、黄体期には、他の時期には見られない「怒り」などの攻撃的な感情が現れたり、「イライラ」の回答数が多くなっていました。
また、卵胞期では他の期間に比べて精神的不調が少なかったです。

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図4: 各期間ごとのこころの不調の発生回数(参加者ごとの例)

個人ごとのデータも見てみたところ、参加者3のようにまんべんなく症状が出る人もいれば、参加者4のように特定の症状のみが出る人もいました。

3.月経期について

次に、月経期のアンケートの解析結果です。

3-1.生理痛のつらさと経血量について

月経開始からの経過日数でどのように体調が変化していったか見てみましょう。

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図5: 月経開始からの経過日数ごとの、生理痛のつらさの平均スコア(1~4の4段階で評価)

まず、月経開始からの日数ごとに、「本日の生理痛のつらさについて」の4段階の回答の平均をとりました。(グラフの下の数字が経過日数)
その結果、月経開始から2日目で最もつらさを感じている人が多く、月経開始から4日目以降は軽快していく傾向がありました。

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図6: 月経開始からの経過日数ごとの経血量の平均スコア

経血量についても同じように、「本日の経血量について」の3段階の回答の平均をとりました。
その結果、経血量の平均値も生理痛のつらさと同じように月経開始から2日目に最も高くなり、月経開始から4日目以降は軽快する傾向にありました。

3-2.黄体期・卵胞期の不調について

次に、黄体期卵胞期の期間の体調にどのような個人差があったか見てみましょう。

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図7: 参加者ごとの黄体期の体調のつらさの平均スコア(1~4の4段階で評価)

黄体期の体調の変化やつらさに関する質問「月経がはじまる前、体調の変化やつらさを感じた」の4段階の回答の平均をとりました。グラフの下の数字は参加者のIDです。
その結果、黄体期に不調を感じている人が多い一方で、参加者1,9,15のようにほとんど体調のつらさを感じていない人もいました。

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図8: 参加者ごとの卵胞期の体調のつらさの平均スコア(1~4の4段階で評価)

卵胞期の体調の変化やつらさに関する質問「前回の月経が終了したあと、体調の変化やつらさを感じた」の4段階の回答の平均をとりました。
12人中7人は平均スコアが1と、まったく体調の辛さを感じていない人が多いです。一方で、卵胞期においても体調のつらさを感じている人もいました。


まとめ

弊社女性社員のアンケート解析結果でも、月経開始から2日目に生理痛のつらさ・経血量ともに最も高かったこと、卵胞期は他の時期に比べて体調が良い人が多かったことなど、世間的な通説と一致する部分が多い結果となりました。

しかし、全体傾向とはまた違った挙動を示した参加者もおり、全員が同様のつらさを感じているわけではないこともわかりました。全体の解析だけでなく、より個人ごとの解析を進めていく必要があると感じています。

今後の展望

ここまでの解析結果を弊社の女性社員に共有したところ、「人ごとの差を見られて興味深かった」といった感想にくわえ、「春は花粉症や気圧の変化、夏は冷房装置による冷えで調子が悪い、など季節ごとに体調に差がある」「月経期は寝付きが悪くなる」などの意見も出ました。

今後はこれらのフィードバックを元に、Fitbitデバイスのデータを掛け合わせて、生理痛が重い人と軽い人で心拍や睡眠の様子にどのような差が出てくるかなど、より詳しく解析を進めていく予定です。

このように個人ごとのつらさの可視化を行うことで、自分の体調不良の原因の特定や体調不良になりやすい時期の予測が可能になります。
「Ladynamic」プロジェクトでの解析を通して、周囲にそれぞれのつらさを説明しやすい・理解してもらいやすい社会の実現を目指していきたいです。


似顔絵
書いた人:藤本