女性にとって、自分の体調が「わかる」未来を目指して〜Ladynamicプロジェクトのご紹介〜

こんにちは、データサイエンスチームの瀬川です。

私は以前、病院で理学療法士として働いていました。
日々患者さんと接する中で感じたのは「自身の不調がより早期に発見でき、他者にもわかりやすく伝えられる」ことがとても重要であるということです。
それを可能にしたいという想いから、現在はデータサイエンティストの立場で、身体の状態を可視化し、誰もが自分の体調を理解しやすくなる未来を目指しています。

今回のTechBlog第六回では、私が進めている「女性の月経周期に関連するデータの可視化」に焦点を当て、その取り組みについてご紹介していきます。


「Ladynamic」プロジェクトと、女性ヘルスケアの課題について

弊社には女性メンバーのみで構成された「Ladynamic」というプロジェクトがあり、女性の視点に立った課題提起とデータ解析に取り組んでいます。

女性がキャリアを築きながら社会で活躍する機会はますます増えています。リーダーシップを発揮する場面や、専門分野での高い貢献が期待される場面も多く、さまざまな分野で女性がその力を発揮しています。

一方で見逃されがちなのが、女性特有の体調不良や疾患にまつわる問題です。
たとえば月経前症候群PMS)、月経困難症、さらには更年期症状など、月経周期に関わる症状は仕事や日常生活にも影響を及ぼします。
またもう一つの問題として、これらの症状に悩む女性は多いものの、その悩みを他者に相談することにためらいを感じたり、自分の症状を「たいしたことない」と思い込んでしまったりするケースも少なくありません。

このような課題に立ち向かうために、私たちが立ち上げたのが「Ladynamic」プロジェクトです。

このプロジェクト名は、「Lady(女性)」と「Dynamic(生き生きと)」の2つの言葉の組み合わせでできています。テックドクターの得意分野であるウェアラブルデータの活用とデジタルバイオマーカー(※)の開発という手段を用いて、女性がより健康的で生き生きとした生活を送れる未来を実現するためのプロジェクトです。

※デジタルバイオマーカー……ウェアラブルバイスで測定した『日常データ』をもとにした、病気の早期発見や治療につながる客観的指標(過去記事参照

スマートウォッチなどのウェアラブルバイスの強みは、長期間の連続した生体データを取得できる点にあります。測定の手間も、測定忘れの心配もありません。
ここで収集したデータを活用して、女性特有のデジタルバイオマーカーを開発することができれば、女性が自分の体調を予測・管理する大きな助けとなるはずです。

では具体的にどんなデータの解析を行っているのか、その一例をご紹介します。



女性に関連するデータ解析の紹介①:安静時の心拍数が月経周期と連動している?

まず、社内の女性1名に睡眠、脈拍、活動量に関するデータを数ヶ月にわたって蓄積してもらいました。

これに加え、被験者にはアンケートで月経開始日と終了日を記入してもらい、ウェアラブルバイスデータの推移と月経周期の関係性を可視化しました。

図1:ウェアラブルバイスデータと月経周期のグラフ。安静時心拍数は上段。

黄体期排卵後から次の月経が始まるまでの期間)を月経開始前の7日間、卵胞期(月経が終わってから排卵までの期間)を月経終了後の5日間と定義しました。
ウェアラブルバイスデータは1日単位に集約し、日ごとのデータとして使用しました。
※グラフに使用したデータは、1日のデータ取得率が70%を超えるもののみを採用しています。

月経期は背景を赤色、黄体期は青色、卵胞期は緑色で色分けしています。
注目してほしいのは一番上の折れ線グラフです。これは安静時心拍数の推移を表しています。
月経期が始まると月経終了日に向けて安静時心拍数が下がっていき、卵胞期を経て黄体期に向かって再度上がっていく周期性がわかるでしょうか。

月経周期に合わせて基礎体温が周期的に変動することは、一般的によく知られています。今回のグラフからは、安静時心拍数にも同じように月経周期に関連した周期性がある可能性が示唆されました。

女性に関連するデータ解析の紹介②:ウェアラブルバイスデータで月経痛の定量化ができる?

次にご紹介するのは、月経痛の定量化に関する取り組みです。
月経痛は個人差が大きいですが、それを定量化する手段が少ないことが課題です。

そこで私たちは社内の女性メンバーを対象に、月経痛が生じるごとに、月経痛に関するアンケートに回答してもらいました。
アンケートには、月経痛の強さに関する設問(MDQ(※)を参考に5段階評価)や、月経痛の持続時間の設問が含まれています。その回答から、痛みが軽く持続時間が短い人を「月経痛の軽い人」、痛みが強く長時間続く人を「月経痛の重い人」として定義しました。

MDQ……月経前や月経中にともなう症状を測定する尺度

次に、「月経痛の軽い人」と「月経痛の重い人」を1名ずつ選出し、それぞれの月経期(痛み無し)/月経期(痛み有り)/卵胞期/黄体期の期間に、ウェアラブルバイスデータの違いがあるかどうかを箱ひげ図で可視化しました。

図2(a) 「月経痛が重い人」の期間別箱ひげ図
図2(b) 「月経痛が軽い人」の期間別箱ひげ図

※アンケートとウェアラブルバイスのデータは3周期分のデータを使用しました。

月経期においては、「月経痛の重い人」では痛み無し期よりも痛み有り期の安静時心拍数が高い傾向があります。しかし「月経痛の軽い人」ではそれが逆転しています。

また、両者ともに黄体期は卵胞期よりも安静時心拍数が高いですが、「月経痛の重い人」は「月経痛の軽い人」よりも安静時心拍数の変動が大きい傾向がみられました。

今回の解析は「月経痛の重い人」と「月経痛の軽い人」の被験者数が1名ずつであったため、統計的な検定は行わず、可視化に留めました。
しかし今回の結果から期間の安静時心拍数の変動の大きさが月経痛の強さによって違う可能性が見えてきました。

今後は、より多くの被験者を対象にしてデータを集め、統計検定を行いながら月経痛とウェアラブルバイスデータの関係をより詳しく分析していきたいと考えています。


女性が自分の体調を予測・管理し、より健康的で生き生きとした生活を送ることができる未来を目指して

今回は月経周期に関連するウェアラブルバイスデータの可視化について書きましたが、今後はウェアラブルバイスデータから月経開始日や排卵日を予測することにも取り組んでいく予定です。

ウェアラブルバイスで予測が可能になれば、現在広く使われている基礎体温測定の代わりとして、より手軽で正確な月経周期管理が実現できるかもしれません。

私たち「Ladynamic」プロジェクトが目指しているのは、ウェアラブルバイスを通じて自身の体調を把握することで、より多くの女性が自分の体調を理解し対処することができる未来です。
また「自分の症状が軽いのか重いのか分からない」といった悩みに対しても、個人の症状を他者と比較することができれば、必要なケアを受けやすくなるはずです。

今回ご紹介した以外にも、今後は月経前症候群PMS)や月経困難症などの疾患に対するデジタルバイオマーカー開発にも取り組んでいく予定です。

こうした活動を通して、わたしたちはより女性が安心して活躍できる社会の実現を目指していきます。



書いた人:瀬川